研究系及び研究施設の現状 183
永 田 央(助教授)
A -1)専門領域:有機化学、錯体化学
A -2)研究課題:
a) 光励起電子移動を利用した触媒反応の開発 b)金属ナノ粒子・有機分子複合体の合成
c) 大型有機分子を用いたナノ反応場の設計と制御
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) ポルフィリンの光励起電子移動を利用したアルコールの酸化反応系について,ポルフィリンの種類に対する依存性 を調べた。ベンジルアルコール,T E MPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy),2,5-ジ-t-ブチル-1,4-ベンゾキノンのピ リジン溶液に触媒量のポルフィリンを加えて可視光照射すると,ベンズアルデヒドが生成する。この反応で使用す るポルフィリンの置換基を系統的に変化させて反応初速度を調べたところ,ポルフィリンの酸化電位に対してベル 型の依存性が観測された。酸化電位の低い場合はT E MPOの一電子酸化が律速になり,一方酸化電位の高い場合はポ ルフィリンからキノンへの光励起電子移動が律速になると考えられる。実際,ポルフィリンの三重項のキノンによ る失活速度を測定したところ,酸化電位の高いフリーベースポルフィリンでは電子移動失活が極めて遅いことが示 された。この結果は,酸化電位の高いポルフィリンの場合に一重項からの反応が一部関与している可能性を示唆し ている。
b)金属ナノ粒子を光合成モデルの構成要素の一つとして有機分子系に組み込むために,金属ナノ粒子・有機分子複合 体の合成に取り組んでいる。アリルオキシ基を有するベンゼン環をチオエーテル結合で9,15,21個結合した三脚 型分子をそれぞれ合成し,これを用いて貴金属ナノ粒子の安定化を試みた。平均粒径は9量体∼15量体<21量体と なり,9量体では粒径分布が15・21量体とくらべて広いことがわかった。また,粒径分布を透過電子顕微鏡観察と溶 液中の小角X線散乱でそれぞれ測定して比較したところよい一致が見られ,溶液中でも乾燥時に近い状態をとって いることが示唆された。
c) 内部にカルボキシル基を有する新しいタイプのデンドリマー様分子を開発した。この分子はカルボン酸塩の状態で, 水/T HF 混合溶媒中で混合比によって大きな順ミセルから小さな逆ミセルへと集合状態を変化させることがわかっ た。また,この分子は空間的に比較的疎であるため,内部に官能基を容易に導入することができる。実際,フェロセン やキノンの誘導体を1分子あたり14個結合させた分子をそれぞれ合成し,酸化還元プールとしての機能を評価した。
C ) 研究活動の課題と展望
今年度の最大の成果は新しいデンドリマー様分子の合成法確立である(上記課題(c))。着任以来「酸化還元プール機能を 持つ分子の光化学挙動」に興味を持って研究を進めてきたが,多様な分子設計が可能なオリジナル骨格が手に入ったので, 今後はこの骨格を中心に酸化還元プール分子の開発・機能探索を進めていく。
また,金属ナノ粒子・有機分子複合体もおおむね再現性よく安定に作れることがわかった。しかしながら,有機分子はまだ保 護剤として働いているのみで,複合体に特別な機能を付与することが今後の課題である。
今年度は光励起電子移動を用いた反応開発(上記課題(a))については新たに大きな進展はなかったが,還元反応の開発 を中心に引き続き取り組んでいく。